
概要と開発の背景
AGM-114 ヘルファイア(AGM-114 Hellfire)は、1970年代にアメリカのRockwell International(開発・初期生産、現:Lockheed MartinおよびBoeing)によって開発が進められ、1985年にアメリカ陸軍へ制式導入された空対地誘導ミサイルシステムである。名称の「Hellfire」は「Helicopter Launched Fire-and-Forget(ヘリコプター発射式打ちっぱなし誘導弾)」の頭文字に由来する。1970年代当時、アメリカ軍が主力運用していたBGM-71 TOWなどの初期型対戦車ミサイルは有線誘導方式に依存しており、射程が約3.75km程度と短い上、発射母機が着射まで停止・露出(ホバリング)し続けなければならない運用上のリスクを抱えていた。さらに、冷戦下におけるソビエト連邦を中心とする東側諸国の膨大な装甲部隊に対抗するため、敵の対空火器の射程外(スタンドオフ距離)から射撃が可能で、機動性と長射程を備えたヘリコプター搭載型対戦車兵器の整備が強く求められた。これを受け、次世代攻撃ヘリコプターの主力装備として開発がスタートした。
構造と技術的特徴
構造上の最大の特徴は、有線コードを完全に排除し、セミアクティブ・レーザー・ホーミング(SALH)誘導方式を採用した点にある。発射母機や前線の地上部隊、あるいは他機が照射するレーザー反射光をミサイル先端のシーカーが追尾して目標へ向かう構造を持つ。発射モードには、発射前に目標をロックオンする方式(LOBL)に加え、遮蔽物の陰から慣性誘導で発射した後に上空で目標を捕捉する発射後ロックオン方式(LOAL)を備えており、発射母機の生存性を飛躍的に高めている。また、ミリ波レーダーシーカーを搭載して完全な自動追尾(打ちっぱなし)を実現したAGM-114L「ロングボウ」や、爆発反応装甲(ERA)を無力化するタンデム成形炸薬弾頭を備えたAGM-114K、多目的用途に対応する整合型モデルAGM-114R「ロメオ」など、先進的な派生型が多数開発された。前級のTOWと比較して、最高速度マッハ1.3(約1,601km/h)の超音速飛翔と、8km〜11kmにおよぶ大幅な長射程化が達成されている。
運用実績と評価
1985年の制式化以降、アメリカ陸軍・海兵隊・海軍・空軍をはじめ、イギリス、オーストラリア、日本(陸上自衛隊のAH-64D)など30カ国以上の軍事組織で主力精密誘導火器として採用された。発射プラットフォームはAH-64 アパッチやAH-1Z ヴァイパーといった攻撃ヘリコプターにとどまらず、MQ-9 プレデターやMQ-9 リーパーなどの無人航空機(UAV)、さらには艦船や地上車両へも拡大された。1989年のパナマ侵攻で実戦投入されて以来、湾岸戦争、アフガニスタン紛争、イラク戦争、各種対テロ作戦にいたるまで膨大な運用実績を重ねた。特に無人機からの高精度なピンポイント空対地打撃において極めて高い信頼性と着射精度が証明された。後継となるJAGM(Joint Air-to-Ground Missile)への移行が進められている現代においても、世界における空対地精密誘導兵器の金字塔として運用が続けられている。
| Official Name (正式名称): | AGM-114 Hellfire |
| Country of Origin (開発国): | アメリカ合衆国 |
| Manufacturer (製造メーカー): | Lockheed Martin (※過去のセカンドソースおよび共同製造として Boeing、弾頭・シーカーの一部に Northrop Grumman 等が参画) |
| Designed (設計年): | アメリカ陸軍による対戦車ミサイル開発の要求に伴い1971年(または1972年)に開発・設計プログラムが本格始動し、1976年10月にロックウェル・インターナショナル社と主契約が締結されて試作開発が進められ、各種試験を経て1984年に制式化(部隊配備開始)されたのち、初期型のAGM-114Aが1985年に初期運用能力(IOC)を達成、1986年4月から陸上部隊等での正式な運用を開始 |
| Primary Operators (主な運用組織): | アメリカ合衆国:アメリカ陸軍(各陸軍航空旅団・AH-64アパッチ運用部隊、M-SHORAD防空部隊等)、アメリカ海軍(MH-60R,MH-60Sヘリ運用部隊、沿海域戦闘艦(LCS)搭載部隊)、アメリカ海兵隊(各海兵軽攻撃ヘリコプター飛行隊(HMLA)・AH-1Z運用部隊、KC-130J運用部隊)、アメリカ空軍(MQ-9リーパー運用部隊、AC-130Jガンシップ運用部隊等) 日本:陸上自衛隊(航空学校、教育支援飛行隊、および各地の「対戦車ヘリコプター隊」等。AH-64Dアパッチ・ロングボウの主力空対地火器としてAGM-114Kやミリ波レーダー誘導型のAGM-114Lロングボウ・ヘルファイアを配備・運用中)、海上自衛隊(SH-60K運用部隊など) ウクライナ:ウクライナ陸軍、防空部隊(※米国、北欧、英国等から沿岸防衛用および対ドローン・対地用として大量に無償供与。全地形対応車(ATV)にテンペストシステムを構築した移動式空地迎撃ハンター部隊などで実戦配備・運用中) 台湾(中華民国):中華民国陸軍(第601、第602航空旅団などの航空特戦指揮部・AH-64E/AH-1W運用部隊)、中華民国海軍(海軍航空隊のS-70C(M)および調達中のMH-60R運用部隊用として調達) 英国:イギリス陸軍(陸軍航空隊(AAC):第3、第4連隊などのアパッチAH1/AH-64E運用部隊。※派生品として、ヘルファイアの機体設計をベースに英国が独自にミリ波レーダーやタンデム弾頭を大幅に改良し、実質的な超進化型別系統ミサイルとして国産化した「ブリムストーン(Brimstone)」を開発、空軍戦闘機や地上ランチャー、ウクライナ支援用として大量運用中) スウェーデン:スウェーデン陸軍、沿岸防衛部隊(※公式ライセンス・沿岸防衛用派生品として、ヘルファイアを地対海・対舟艇用に最適化して国内ライセンス生産した「Rbs 17(ロボット17)」を開発。固定三脚架での発射システムとして水陸両用戦部隊等に広く配備・運用中) ノルウェー:ノルウェー陸軍、沿岸防衛部隊(※スウェーデン同様に沿岸防衛用「Rbs 17」の運用および、歩兵携行三脚架式地上ランチャー型のヘルファイアを長年運用。一部はウクライナへ供与) イスラエル:イスラエル航空宇宙軍(第113、第190飛行隊などのAH-64A/AH-64D攻撃ヘリ運用部隊、各種無人機部隊)、イスラエル海軍(高速哨戒艇などの艦載精密火器)。(※また、ヘルファイアをベースに弾体やシーカー、推進部を完全再設計・大型化した独自の高度発展・派生品ミサイルファミリーである「スパイク(Spike)」ミサイル(特に最大射程を誇るSpike-NLOSなど)を開発・量産し、自軍のみならず世界数十カ国に輸出中) オーストラリア:オーストラリア陸軍(陸軍航空第1連隊などのタイガーARH、および調達中のAH-64Eアパッチ運用部隊)、オーストラリア海軍(航空隊のMH-60Rシーホーク運用部隊) フランス:フランス陸軍(陸軍航空隊(ALAT):第5戦闘ヘリコプター連隊などのタイガーHAD攻撃ヘリ運用部隊) ドイツ:ドイツ陸軍(第36戦闘ヘリコプター連隊などのタイガーUHT攻撃ヘリ運用部隊、またはユーロコプター支援システム) イタリア:イタリア海軍(海軍航空隊のMH-60R、または特殊作戦機用)、イタリア陸軍(A129マングスタ攻撃ヘリの対戦車火器として過去に少数調達・評価。現在は国産スパイクへ移行) オランダ:オランダ王立空軍(第301飛行隊などのAH-64D/AH-64Eアパッチ攻撃ヘリコプター運用部隊) ギリシャ:ギリシャ陸軍(第1、第2陸軍航空大隊のAH-64A+/AH-64Dロングボウ運用部隊)、ギリシャ海軍(海軍航空隊のS-70B/MH-60Rシーホーク運用部隊) スペイン:スペイン陸軍(陸軍航空隊(FAMET):第1攻撃ヘリコプター大隊のタイガーHAD戦闘ヘリ運用部隊) トルコ:トルコ陸軍(陸軍航空部隊のAH-1Wスーパーコブラ運用部隊、および各種国産UAVでの運用試験) 韓国:大韓民国陸軍(陸軍航空作戦司令部隷下の各航空旅団・AH-64Eアパッチ運用部隊、およびAH-1S運用部隊) シンガポール:シンガポール空軍(第120飛行隊などのAH-64Dアパッチ運用部隊) インドネシア:インドネシア陸軍(陸軍航空隊の第11航空大隊・AH-64Eアパッチガーディアン運用部隊) インド:インド陸軍(第451陸軍航空隊などのAH-64E運用部隊)、インド空軍(第125ヘリコプター飛行隊などのAH-64Eアパッチ運用部隊) パキスタン:パキスタン陸軍(陸軍航空隊の各種戦闘ヘリコプター、およびAH-1Zヴァイパー用火器) サウジアラビア:サウジアラビア陸軍(陸軍航空旅団のAH-64A/AH-64D/AH-64Eアパッチ運用部隊)、サウジアラビア王室警備隊(独自の航空支援部隊)、サウジアラビア国家警備隊(SANG)(独自航空旅団のAH-64E運用部隊) アラブ首長国連邦:アラブ首長国連邦陸軍(陸軍航空司令部のAH-64D/AH-64Eアパッチ運用部隊)、UAE海軍(艦載MH-60Rシーホーク、および各種沿岸戦闘艇) エジプト:エジプト空軍(各戦術航空部隊のAH-64Dアパッチ運用部隊) ヨルダン:ヨルダン王立空軍(第10、第12飛行隊などのAH-1F/Sコブラ、およびAC-208コンバットキャラバン運用部隊) カタール:カタール空軍(特殊攻撃ヘリコプター飛行隊のAH-64Eアパッチ、およびUAV運用部隊) クウェート:クウェート空軍(第17、第20飛行隊などのAH-64Dアパッチ運用部隊) バーレーン:バーレーン王立空軍(第8、第9、第22飛行隊などのAH-1E/P/Z系列攻撃ヘリ運用部隊) イラク:イラク陸軍(陸軍航空隊のIA-407戦闘ヘリ、およびAC-208コンバットキャラバン対地精密打撃部隊) チュニジア:チュニジア空軍(※OH-58Dカイオワ・ウォリア戦闘ヘリ部隊、および対テロ作戦用) レバノン:レバノン空軍(※AC-208コンバットキャラバン、およびMD-530G軽攻撃ヘリコプター部隊) モロッコ:モロッコ王立空軍(※主力調達中のAH-64Eアパッチ用、および各種無人機(UAV)用の精密空対地火器としてAGM-114R等を大規模配備) カナダ:カナダ空軍(※近年のDSCA通告に基づき、MQ-9Bスカイガーディアン無人機(UAV)導入に合わせて、最新のAGM-114R2ヘルファイア含む大量のシステム契約・運用部隊を新設中) ポーランド:ポーランド陸軍(※軍近代化プログラムに基づき、AW149多目的ヘリコプターおよび調達中のAH-64Eアパッチ用に、最新のAGM-114R2を数千発規模で調達、陸軍航空部隊にて順次運用開始) クロアチア:クロアチア陸軍、航空部隊(※米国から供与されたOH-58Dカイオワ・ウォリア軽攻撃ヘリコプターの主力精密誘導兵器としてAGM-114R等を配備・運用中) |
| Type (種類): | 対戦車誘導弾 (空対地/地対地精密誘導ミサイルシステム) |
| Caliber / Diameter (口径/ミサイル直径): | 178 mm (7 in.) |
| Guidance System (誘導方式): | セミアクティブ・レーザー誘導 (SALH:Semi-Active Laser Homing)、またはアクティブ・レーザー・レーダー(ミリ波)方式 (MMW:Millimeter-Wave radar seeker ※AGM-114L等に搭載) |
| Overall Length (全長/キャニスターサイズ): | 1,620 – 1,750mm (型式依存。初期A型〜K型等は約1.63m、L/M/N/R型等は約1.80m) |
| Wingspan (翼幅): | 展開時 約710mm (28 in.) 折り畳み時 約330mm (13 in.) |
| Weight (重量/総システム重量): | ミサイル単体重量 約45kg〜49.4kg (98 pounds〜109 pounds、型式による) 総システム重量は4連装ランチャー(M299等)空虚重量約66kg、ミサイル4発フル装填時で約259kg |
| Flight Speed (飛翔速度): | 最大速度マッハ1.3 (約450m/s 時速約1,600km/h、基本は高速巡航の亜音速〜最高マッハ1.3) |
| Effective Range (有効射程): | 最小射程 500mから 最大射程 8,000 – 11,000m (約8.0 – 11km。※発射プラットフォームの高度や軌道設定、固定翼・無人機(UAV)等の運用条件により最大11kmに延伸) |
| Warhead & Propulsion (弾頭/推進方式): | 成形炸薬(HEAT)、タンデム成形炸薬(Tandem HEAT)、爆風破片効果弾頭(Blast Fragmentation)、金属強化炸薬(MAC)、またはR9X等の鋼鉄製ブレード弾頭 / 推進方式:固形燃料ロケット・モーター (Thiokol TX-657 等) |
OPERATING FORCES / 運用国・軍種
PR:関連商品
画像の引用元
- By Hunini – Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=151266185










