
概要と開発の背景
V-BAT(アメリカ軍制式名称: MQ-35A)は、2010年代にアメリカのMartin UAV(2021年にShield AIが買収)によって開発された小型の垂直離着陸(VTOL)型戦術無人航空機システム(TUAS)である。従来の固定翼無人機は離着陸に滑走路や大型のカタパルト(射出装置)、回収用ネットなどの大規模な地上支援機材を必要としており、スペースが限られた小型艦艇の飛行甲板や前線の過酷な拠点での運用に大きな制約が存在した。一方で回転翼(多軸ヘリコプター)型無人機は離着陸性能に優れるものの、固定翼機と比較して航続距離や滞空時間、飛行速度の面で劣るという課題を抱えていた。こうした従来の固定翼機と回転翼機双方の課題を克服し、固定翼機並みの長航続性能と省スペースでの垂直離着陸能力を両立した次世代の野外偵察・情報収集(ISR)アセットとして開発がスタートした。
構造と技術的特徴
構造上の最大の特徴は、機首を上に向けて垂直に発進・着陸し、上空で水平飛行へと滑らかに移行する「テールシッター(Tailsitter)」方式と、胴体後部に配置された単発の「ダクテッドファン(有環プロペラ)」構造にある。露出したローターが存在しないため、地上要員の作業安全性が向上しているほか、わずか4.6m×4.6m(約15フィート四方)という極めて狭小なスペースからの自律的な垂直離着陸を可能にしている。機体は複合材料を用いた軽量かつ強固な構造を有し、わずか2名の要員により30分以内で分解・組み立てが完了する高い可搬性を備える。また、Shield AIが独自開発した高度AI制御ソフトウェア「Hivemind」を搭載しており、GPS妨害や通信遮断が発生する過酷な電子戦環境下であっても、視覚航法等を用いて自律的に任務を完遂できるメカニズムと、複数機による相互連携(スウォーム飛行)機能を誇る。
運用実績と評価
アメリカ海軍での実証試験や制式名称「MQ-35A」の付与をはじめ、アメリカ沿岸警備隊、コロンビア海軍、ギリシャ陸軍、オランダ海軍、インドネシア陸軍、ウクライナ軍、さらには日本の海上自衛隊など、世界各国の軍事・治安機関で導入および配備が進められている。実際の運用においては、米海軍や欧州各国の護衛艦・巡視船での艦載運用において、滑走路や捕獲装置を一切必要としない圧倒的な運用の容易性と省スペース性が具体的に高く評価された。さらに、激しい電子波干渉が飛び交うウクライナの実戦環境において、相手方の各種防空システムの位置特定や野外部隊への標的データリアルタイム中継を成功させ、高耐波性・耐電子戦能力(Anti-EW)と12時間以上に及ぶ長時間滞空性能の実効性を証明した。前線部隊から洋上艦艇に至るまで、全天候・多目的の情報収集・標的指示プラットフォームとして国際的に確固たる評価を獲得している。
| Official Name (正式名称) | V-BAT (米軍型式名:MQ-35A) |
| Country of Origin (開発国) | アメリカ合衆国 |
| Manufacturer (製造メーカー) | Shield AI(シールドAI。元はMartin UAVが開発、後に買収) |
| Designed (設計年) | 2010年代半ばから狭隘な前線や艦載での運用を想定した設計が進められ、2016年に初期プロトタイプが発表。2021年から米海軍・海兵隊での実戦的な運用が開始され、2024年にアメリカ国防総省にて「MQ-35A」の公式型式名が付与された垂直離着陸(VTOL)型無人航空機システム |
| Primary Operators (主な運用組織) | アメリカ合衆国:アメリカ海軍(複数クラスの艦艇に艦載)、アメリカ海兵隊(すべての海兵遠征部隊(MEU)に配備)、アメリカ陸軍(次期戦術無人航空機(FTUAS)プログラム最有力候補として選定中)、アメリカ空軍、アメリカ沿岸警備隊(USCG:海洋無人航空機システムサービスの一環として調達) ウクライナ: ウクライナ武装親衛隊・ウクライナ無人システム軍(USF)(前線での偵察・標的獲得任務(ISR)やロシア軍の電子戦(EW)妨害下における深部侵入作戦に実戦投入中) 日本: 海上自衛隊(2025年に小型無人航空機として選定、新型の「新型FFM(次世代護衛艦)」や新型哨戒艦などの航空甲板を持つ艦艇への搭載用として艦載型UAV(小型)の名称で導入推進中) オランダ: オランダ王立海軍、オランダ海兵隊(海洋ISR能力向上のため、2025年に初期分として12システムを導入決定) ルーマニア: ルーマニア海軍(米国の海洋領域認識(MDA)イニシアチブを通じた寄贈および政府間(G-to-G)契約により導入、フリゲート「レジナ・マリア」等での洋上運用試験・配備を進行中) インド: インド陸軍(緊急調達枠および技術ライセンス供与(JSWディフェンスとの共同)に基づく機体・Hivemind自律ソフトウェアの導入契約を締結し配備中) ギリシャ: ギリシャ陸軍(運用組織として籍を置き、戦術偵察アセットとして導入) インドネシア: インドネシア陸軍(戦術運用・監視アセットとして導入・保有) アルゼンチン: アルゼンチン海軍(将来的な洋上監視用アセットとして導入を決定) アルメニア: アルメニア共和国軍(偵察・監視能力強化のため、米国政府の承認のもと調達・導入を開始) ブラジル: VSK Tactical(軍組織ではなく国内の民間警備・セキュリティ大手組織が、監視および治安維持用途として製造元より直接発注・運用) |
| Crew (乗員) | 0名(完全無人機。2名形式の地上管制クルーにより、20分以内でセットアップから離陸管制までが可能) |
| Dimensions (寸法):全長、全幅(翼幅)、全高 | W: 2.97 m(翼幅) × D: 2.74 m(全長) × H: 非公表(テールシッター垂直駐機時の全高、または飛行時の機体全高は公式スペックシート上「3m四方のスペースで運用可能」と定義) |
| Empty / Max Takeoff Weight (自重 / 最大離陸重量) | 自重(空虚重量):約 34 kg(機体のみ) / 最大離陸重量:約 56.7 kg(125 lb) |
| Powerplant (エンジン):型式、推力 | 1x Suter TOA 288(2ストローク・水平対向2気筒電子制御燃料噴射エンジン)、出力:約 24 hp(機体後部のダクテッドファンを駆動) |
| Max Speed (最大速度):マッハ表記、高度別の速度 | マッハ表記:約 Mach 0.08、高度別の速度:約 56 kt(約 104 km/h)(最大速度。標準的な巡航速度は45 kt / 約83 km/h) |
| Combat Range (戦闘行動半径) / Ferry Range (航続距離) | 戦闘行動半径:約 100 km(データリンク・見通し線通信の限界に準拠。進出先で長時間のオンステーションが可能) / 航続距離(航続性能):最大連続飛行時間 10時間以上(ペイロード約11.3kg搭載時) |
| Service Ceiling (実用上昇限度) | 約 4,570 m(15,000 ft) |
| Hardpoints (ハードポイント):ミサイルや爆弾の搭載能力 | なし(主翼下にミサイルや爆弾を懸架するハードポイントは非装備。ただし、機体中央のモジュール式ペイロード・ベイに光学・赤外線カメラ、光学センサー(EO/IR)、AI制御用のHivemindエッジコンピューター、各種レーダー、電子戦・妨害用装備、または限定的な小型精密誘導兵器の内蔵統合能力が検証されている) |
| Fixed Armament (固定武装):機関砲の口径、弾数 | なし |
OPERATING FORCES / 運用国・軍種
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画像の引用元
- By U.S. Marine Corps photo by Sgt. Andrew King – https://www.dvidshub.net/image/7616512/31st-meu-flies-v-bat-drone, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=131323688












