
概要と開発の背景
シーラス T-53A カデット II(Cirrus T-53A Kadet II)は、2010年代初頭にアメリカの Cirrus Aircraft(旧 Cirrus Design Corporation)が開発・製造し、2011年よりアメリカ空軍へ納入された単発レシプロプロペラ初等飛行練習機である。開発および導入の背景には、コロラド州のアメリカ空軍士官学校(USAFA)において士官候補生向け初期飛行訓練(Powered Flight Program)に用いられていた民間の借入機体 T-52A(Diamond DA40)の契約満了に伴う更新ニーズが存在した。コロラドスプリングス近郊の標高約2,200メートル(約7,200フィート)という高地に位置する士官学校飛行場特有の空気密度が低い環境下において、十分な上昇力と余裕ある運動性能を発揮し、候補生の初単独飛行(ソロフライト)や飛行適性評価を安全かつ確実に行う軍所有の基幹機材調達計画のもと、民間のベストセラー軽飛行機 Cirrus SR20(第3世代/G3モデル)をベースとした T-53A 全25機の導入がスタートした。
構造と技術的特徴
構造上の最大の特徴は、ベースとなった Cirrus SR20(G3規格)の先進的な全複合素材(オールコンポジット)軽量セミモノコック構造を継承し、万一の操縦不能や機体不具合の発生時に機体全体をパラシュートで安全に地上へ降下させる「機体緊急パラシュートシステム(CAPS: Cirrus Airframe Parachute System)」を標準統合している点にある。推進システムには Continental Motors(現 Continental Aerospace Technologies)製 IO-360-ES 水平対向6気筒空冷ガソリン燃料噴射式エンジン1基(200馬力)と3翔可変ピッチプロペラを搭載する。前級の T-52A(Lycoming IO-360 / 180馬力)と比較してパワーウェイトリシオと機内容積が拡大されており、高標高飛行場からの安全な離陸滑走と安定した上昇パフォーマンスを確保している。コクピットには Garmin 製 Cirrus Perspective 統合デジタル・グラスコクピットが導入され、大画面多機能ディスプレイ(MFD)、電子安定防護機能(ESP)付き GFC700 自動操縦装置、および衝撃吸収エアバッグ内蔵シートベルトが標準装備されている。
運用実績と評価
2011年より部隊受領が開始され、2012年春までに全25機の配備が完了して以降、T-53A はアメリカ空軍教育訓練コマンド(AETC)傘下、コロラド州アメリカ空軍士官学校に所在する第557飛航訓練飛行隊(557th Flying Training Squadron)に制式採用され、集中運用されている。実際の運用においては、士官候補生向けの基本動力飛行訓練課程(Airmanship 419 / 420等)へ投入され、2012年9月に初の候補生単独飛行(ソロフライト)を成功させて以来、毎年数百名規模の将来の空軍士官に対して初歩的な航空感覚(Airmindedness)の養成と飛行適性確認を実施している。また、全米大学航空競技会(NIFA)で競う「USAFA Flying Team」の訓練・競技機体としても活用されている。複合素材構造と先進アビオニクス、ならびにCAPSやエアバッグがもたらす極めて高い搭乗員保護性能と高標高下での優れた機械的信頼性が具体的に評価されており、現代のアメリカ空軍パイロット育成の最初のステップを支える基幹初等訓練アセットとして第一線で現役運用が続けられている。
| Official Name (正式名称) | T-53A Kadet II (民間機であるシーラス SR20 G3の米空軍における識別名称) |
| Country of Origin (開発国) | アメリカ合衆国 |
| Manufacturer (製造メーカー) | Cirrus Aircraft |
| Designed (設計年) | ベースとなった民間機シーラス SR20(Cirrus SR20)は1994年にモックアップが発表され、1995年3月21日にプロトタイプが初飛行を達成している。運用開始年については、2011年にアメリカ空軍士官学校(USAFA)の士官候補生飛行訓練用として選定が行われて最初の機体が同年6月に到着し、従来の機体に代わって2012年春から本格的な運用が開始された。 |
| Primary Operators (主な運用組織) | アメリカ合衆国:アメリカ空軍(アメリカ空軍士官学校のUSAFAフライングチーム、および第306飛行訓練グループ第557飛行訓練飛行隊にて25機のT-53A Kadet IIを動力飛行訓練や競技用に運用) フランス:フランス宇宙空軍、フランス海軍(民間会社カシディアンが運行するベース機・派生品のシーラス SR20を各航空士官学校の初等訓練用に計16機を共同運用) |
| Crew (乗員) | 2名 (学生1名、教官1名、コックピットは並列配置。アメリカ空軍が運用する初期ロットの25機には後部座席が装備されておらず、追加の兵員や乗客の搭乗能力はなし。なお、ベース機であるSR20の民間仕様では最大4名〜5名の座席容量を持つ) |
| Dimensions (寸法):全長、全幅(翼幅)、全高 | L: 7.92 m (26 ft) W: 11.68 m (38 ft 4 in) H: 2.72 m (8 ft 11 in) |
| Empty / Max Takeoff Weight (自重 / 最大離陸重量) | 自重: 943 – 980 kg (2,080 – 2,161 lb) (ベースとなったSR20 G3の標準仕様値であり、T-53A固有の自重データは不明) 最大離陸重量: 1,383 – 1,633 kg (3,050 – 3,600 lb) (資料や運用の仕様などデータにより数値に幅が存在) |
| Powerplant (エンジン):型式、推力 | 型式: 1x Continental IO-360-ES 水平対向6気筒ピストンエンジン 推力: 200 hp |
| Max Speed (最大速度):マッハ表記、高度別の速度 | 高度別の速度: 最高巡航速度として287 – 289 km/h / 155 – 156 knなどの性能値は存在するが、特定の高度階層別の詳細な制限速度規定は非公開または不明 |
| Combat Range (戦闘行動半径) / Ferry Range (航続距離) | 航続距離 (Ferry Range): 約 1,161 – 1,454 km (627 – 785 nmi) (資料により約 1,943 km / 1,049 nmiとする記述もあり) |
| Service Ceiling (実用上昇限度) | 17,500 ft (5,334 m) |
| Hardpoints (ハードポイント):ミサイルや爆弾の搭載能力 | None |
| Fixed Armament (固定武装):機関砲の口径、弾数 | None |
OPERATING FORCES / 運用国・軍種
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