
概要と開発の背景
L84A3 Red Phosphorus Smoke Screening Hand Grenade(商業型番:SPIRCO – Spontaneous InfraRed Cover)は、2000年代初頭にイギリスのPW Defence Ltd(現 Wescom Defence)およびドイツのRheinmetall社が共同開発し、イギリス軍を中心に制式採用された歩兵用赤燐発煙手榴弾である。開発の背景には、従来イギリス軍で長年使用されていたNo.80 WP(白燐)手榴弾や六塩化エタン(HC)系煙幕手榴弾の更新ニーズが存在した。従来の白燐手榴弾は自然発火性が高く保管時の安全性に課題があり、HC系手榴弾は煙幕展開までに十数秒を要するため近接交戦時での退避遮蔽に遅れが生じる難点があった。さらに、現代戦において歩兵を脅かすサーマル暗視装置やレーダー誘導機器の普及に伴い、可視光のみならず赤外線波長帯まで即座に視射遮蔽できる強靱な煙幕アセットが不可欠となった。これらを解決し、投擲後わずか1〜2秒で濃密な視射遮蔽幕を形成して歩兵部隊の生存性を大幅に高める新世代の遠隔遮蔽火器として本手榴弾が開発された。
構造と技術的特徴
構造上の最大の特徴は、高密度な赤燐(RP)ペレットとバインダーを配合した六角形ディスク型点火剤を内部に充填し、点火と同時に破砕・燃焼させて濃密な煙幕を放出するエアロゾル生成機構を採用している点にある。作動方式には信頼性の高い安全レバー離脱式(Fly-off lever)点火信管を採用し、約1.5秒から2.0秒の正確な遅延時間で着火する。従来のHC系発煙手榴弾と比較した最大の技術的優位性は、「SPIRCO(即時赤外線遮蔽)」の名称が示す通り、可視光線域だけでなく近赤外線から遠赤外線(FLIR/サーマル暗視)までの広い波長帯域を瞬時に途絶するマルチスペクトル遮蔽性能にある。燃焼時に生成される高濃度のリン酸化合物エアロゾルは、周囲の水分を吸収して膨張し、着火後1〜2秒で半径10m以上の濃密な熱線遮蔽煙幕を形成する。これにより、敵スナイパーの精密照準や対戦車ミサイルの照準誘導を即座に途絶し、部隊の離脱や開けた地形での前進を強力に支援する設計工夫が施されている。
運用実績と評価
2000年代の制式採用以降、L84A3(SPIRCO)はイギリス陸軍や王立海兵隊をはじめ、エストニア陸軍やウクライナ軍など、NATO加盟国および周辺国の防衛組織で主力赤外線視射遮蔽手榴弾として広く導入された。実際の運用においては、イラク戦争やアフガニスタン紛争での市街地戦闘、さらには東欧における実戦・警戒ミッションへ投入された。開けた路地の横断時や伏撃を受けた際の緊急退避(ポップ・スモーク)、傷病者の救護ミッションにおいて、投擲直後から敵の赤外線照準を完全に無効化できる即応性と高い遮蔽密度が前線部隊から極めて高く評価された。従来の白燐弾に比べて保管時の熱安定性に優れ、誤発火リスクを著しく軽減した点も運用上の高い信頼を獲得している。現在も過酷な戦闘環境下における小隊・分隊レベルの個人携行用マルチスペクトル煙幕火器として、第一線で確固たる立ち位置を維持している。
| Official Name (正式名称) | L84A3 Red Phosphorus Smoke Screening Hand Grenade (ベースモデル名:SPIRCO) |
| Country of Origin (開発国) | ドイツ |
| Manufacturer (製造メーカー) | Rheinmetall(開発元: Buck Neue Technologien GmbH ) |
| Designed (設計年) | L84A3の設計年および軍への運用開始(導入)年については、詳細な日付や特定の開発完了年を示す公的な一次資料(メーカー仕様書や英国防省[MOD]の調達データなど)が一般公開されておらず、不明である。 ただし、設計ルーツとなるベースモデル「SPIRCO」自体の技術は、2000年代半ば(少なくとも2007年のRheinmetall社手榴弾技術資料等)にすでに確立されていた。また、イギリス軍における運用実態としては、前世代モデルであるL84A2の退役・廃棄プロセスに伴い、遅くとも2019年時点には後継としてL84A3が部隊配備・運用されていた事実が公式文書から確認されている。ただし、客観的かつ間接的な製造・配備記録として、少なくとも2010年代初頭にはイギリス軍などで既に部隊配備・運用されていた事実が確認されている。 |
| Primary Operators (主な運用組織) | イギリス:イギリス陸軍、イギリス海軍、王立海兵隊(ドイツRheinmetall社製「SPIRCO」を公式調達し、制式名称L84A3として主力歩兵部隊や特殊作戦ユニットに標準配備・現役運用) エストニア:エストニア国防軍、エストニア防衛連盟(L84A3を公式調達し、領土防衛部隊や実戦訓練にて正規に配備・現役運用) ウクライナ:ウクライナ武装部隊(イギリス軍等による公式な軍事・防衛物資支援パッケージを通じてL84A3を多数受領し、対ロシア前線の各種歩兵部隊・特殊部隊等にて現役で実戦運用) |
| Type (種類) | 発煙手榴弾(赤リン・マルチスペクトル遮蔽用 / Smoke Screening Hand Grenade) |
| Filler Type (炸薬・内蔵化学物質の種類) | 赤リン(Red Phosphorus) |
| Filler Weight (炸薬・薬量) | 全備重量0.38 kgのうち、内蔵されている赤リン発煙組成物単体の純粋なグラム数は非公表 |
| Fuze Type (信管方式) | 延期信管 (Time-delay pyrotechnic fuze / フライオフ・レバー式発火信管) |
| Delay Time (遅延時間) | 投擲から煙幕の放出・展開が開始されるまでの遅延秒数は非公表、展開後は約1秒で急速に遮蔽効果を発揮する |
| Dimensions (外寸) | 全長(全高) 132 mm × 直径 62 mm |
| Total Weight (総重量) | 380 g(0.38 kg) |
| Effective Radius (有効加害・効果半径) | 投擲作動後に最小で長さ10 m以上×高さ2.5 m以上の防護煙幕を急速に展開 |
| Deployment Method (投擲・運用方式) | 手動投擲 (Hand-thrown) |
OPERATING FORCES / 運用国・軍種
PR:関連商品












