HG85 Fragmentation Hand Grenade

HG85 fragmentation grenade
中央:スイス軍のHG85

概要と開発の背景

HG85(Handgranate 85)は、1980年代前半にスイスの国営兵器工廠Munitionsfabrik Altdorf(現 RUAG Ammotec)が開発し、1985年にスイス軍へ制式採用された歩兵用破片手榴弾である。開発の背景には、第二次世界大戦期からスイス軍で標準装備されていた旧式のHG43(Handgranate 43)手榴弾の老朽化と、現代戦における歩兵装備の進化に伴う性能不足が存在した。従来の柄付き型手榴弾であるHG43は、携行時の嵩張りや安全機構の旧式化が課題となっていたほか、東西冷戦期においてボディアーマーを着用した歩兵目標が増加したことで、より確実に損害を及ぼせる高度な破片飛散機構と高い作戦安全性を兼ね備えた新型小隊支援火器の獲得が急務となった。これを受け、人間工学に基づいた可搬性の高い球形/卵形ボディに、精度の高い二重安全信管と均一な破片効果を統合した新世代の標準防御手榴弾として本火器が開発された。

構造と技術的特徴

構造上の最大の特徴は、高強度鋼製シェル内部に155gのTNT高爆薬を充填し、その周りに細かく刻み目を施したプリセグメント鋼製ライナーを配置している点にある。爆発時には平均重量約0.1gの均一な鋼製破片が約1,800個高速飛散し、ケブラー20層と1.6mm厚のチタン板を組み合わせたボディアーマーを着用した目標に対しても、半径5m以内で確実な無効化能力を発揮する。信管部には約3.5秒から4.0秒の正確な遅延時間を持つ機械式着発信管が組み込まれている。最大の技術的優位性は、標準の安全ピンと安全レバーに加え、レバーの不意の脱落を防ぐスプリング鋼製セーフティクリップを備えた二重安全構造にある。これにより、密林地帯での匍匐移動や障害物への接触時においても安全ピンやレバーの誤脱落による爆発事故を完璧に防止する。アメリカ軍のM67手榴弾などのライバル機と比較しても、信管の製造精度と多重安全機構による安全性の高さにおいて極めてすぐれた設計思想を誇る。

運用実績と評価

1985年の制式配備開始以降、HG85は自国であるスイス軍での全軍配備をはじめ、イギリス軍(L109A1として制式化)、オランダ軍(Nr300)、アイルランド軍など、ヨーロッパ各国の防衛組織で主力歩兵手榴弾として幅広く導入された。実際の運用においては、イギリス軍がイラク戦争やアフガニスタン紛争における市街地戦、トレンチ(陣地)清掃、建造物内の近接戦闘へ投入し、過酷な砂塵・熱帯環境下における不発や誤動作の少なさと、投擲時の優れたグリップ性が前線部隊から高く評価された。本火器の成功を受けて、外装構造を共通化しつつ爆音のみを発生させる実動訓練用のMark HG 85、青色に塗装された完全不活性の投擲訓練型L110A1(Manip HG 85)、破片ライナーを排した輸出用攻撃手榴弾OHG92などの多彩な派生型が展開された。登場から数十年が経過した現在も高い安全性と威力を両立した破片手榴弾の世界的スタンダードとして運用が続けられている。

Official Name (正式名称)HG85 Fragmentation Hand Grenade
Country of Origin (開発国)スイス
Manufacturer (製造メーカー)RUAG Ammotec(旧:アルトドルフ連邦弾薬工場 [Munitionsfabrik Altdorf])
Designed (設計年)開発・設計は1980年代前半(1980年代初頭)にスイスのアルトドルフ連邦弾薬工場(Munitionsfabrik Altdorf、現在のRUAG Ammotec社)によって開始され、設計および各種試験プロセスが完了した1985年にスイス軍において正式に採用・運用(部隊配備)が開始された
Primary Operators (主な運用組織)スイス:スイス軍(スイス陸軍が制式名称Hand Granate M1985(HG 85)として、全主力歩兵・山岳歩兵部隊や特殊部隊等に広く配備・現役運用)
イギリス:イギリス陸軍、イギリス海軍(艦艇臨検隊(Boarding Parties)やSBSにて運用)、王立海兵隊(Royal Marines)、および王立空軍連隊(RAF Regt)(スイスより公式調達し、制式名称L109A1および改良型L109A2として標準の防御用破片手榴弾として広く現役運用)
オランダ:オランダ軍(オランダ陸軍、海兵隊[Korps Mariniers]、および空中強襲旅団等において、制式名称Nr 330として主力の手榴弾アセットとして配備・現役運用)
リトアニア:リトアニア軍(リトアニア陸軍の各種歩兵旅団、およびボランティア国防組織等において、HG 85を主力精密破片手榴弾として制式配備・現役運用)
マレーシア:マレーシア陸軍(マレーシアの防衛関連商社SME Ordnance等を通じて調達し、2024年にBarincorp社が20,000発のRUAG製HG 85 HE手榴弾の供給契約を獲得。主に第10パラトルーパー旅団等の主力部隊向けに配備・運用)
アラブ首長国連邦(UAE):UAE軍(2000年代初頭にスイスのRUAG社から大規模な公式調達を行い、主力歩兵および地上軍特殊部隊等に配備・運用)
ウクライナ:ウクライナ武装部隊(イギリス軍による公式な防衛軍事支援を通じてL109A1 / L109A2を数万発単位で受領し、対ロシア前線の各種歩兵部隊・特殊部隊等で実戦運用)
イエメン武装組織(フーシ派およびジャイアンツ旅団):UAEが公式調達したRUAG製HG 85の一部がイエメン内戦下で第三国流出し、UAEの支援を受ける南部「ジャイアンツ旅団」が実戦運用したほか、対峙する武装組織「フーシ派」が戦利品としてこれを鹵獲し、実戦に転用・運用している事実が国連の軍事調査報告書により実証されている
シリア武装勢力および過激派組織:UAEが公式に調達したスイス製HG 85が不正規なルートで流出し、自由シリア軍(FSA)や各種反政府武装グループ、さらには過激派組織ISILの戦闘員らによって実戦で使用されていた実態が、現地で回収された個体のシリアルナンバー追跡調査(CAR報告書)によって裏付けされている
Type (種類)破片手榴弾(Fragmentation hand grenade)
Filler Type (炸薬・内蔵化学物質の種類)TNT(トリニトロトルエン)、または RDXとTNTの混合(重量比:RDX 55% / TNT 45%)
Filler Weight (炸薬・薬量)155 g (5.5 oz)
Fuze Type (信管方式)延期信管 (Time-delay fuze)(信管モデル名:DM 82 CH)
Delay Time (遅延時間)3.0 – 4.0 seconds
Dimensions (外寸)全長(高さ) 97 mm (3.8 in) × 直径 65 mm (2.6 in)
Total Weight (総重量)465 g (16.4 oz)(投擲前の弾薬・信管を含む戦闘即応状態の総重量)
Effective Radius (有効加害・効果半径)非装甲のターゲット(生体)に対する効果半径: 10 m (33 ft)
ケブラー防弾ベスト等の装甲着用ターゲットに対する効果半径: 5 m (16 ft)
安全半径(危険が及ぶ可能性がある最大飛散範囲): 最大 200 m(訓練安全データ等に基づく最大危険範囲)
Deployment Method (投擲・運用方式)手動投擲 (Hand-thrown)

OPERATING FORCES / 運用国・軍種

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画像の引用元
  1. By Wikimedia Commons user TheBernFiles. – Own photograph. Shot at the Army Days 2006 (Heerestage 2006) in Thun., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1322517
  2. By Rama – Own work, CC BY-SA 2.0 fr, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10890504

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