



概要と開発の背景
Merlin HM Mk2 Crowsnest ASaC(クロウズネスト)は、2010年代にイギリスのLockheed Martin UKを主契約社とし、Leonardo HelicoptersおよびThales UKが共同で開発・システム統合を行った、イギリス海軍向けの早期警戒・戦術統制(ASaC / AEW&C)ヘリコプターシステムである。本システムの開発背景には、長年にわたりイギリス海軍空母部隊の空中早期警戒を担ってきたシーキング ASaC.7(Sea King ASaC.7)の老朽化と退役(2018年)に伴う、後継アセットの確保という緊急のニーズが存在した。新型主力空母であるクイーン・エリザベス級空母(HMS Queen Elizabeth / HMS Prince of Wales)の配備と空母打撃群(CSG)の構築にあたり、水平線越しの低空侵入機や高速水上目標を遠距離で探知・追尾できる広域防空の要が不可欠とされた。これを受け、既存の多用途対潜ヘリコプターであるMerlin HM Mk2に着脱可能な高性能レーダーとミッションシステムを統合する「クロウズネスト(Crowsnest)」計画が本格スタートした。
構造と技術的特徴
構造上の最大の特徴は、シーキング ASaC.7で実績のあったThales製SearchwaterレーダーおよびCerberusミッションシステムを最新のデジタル技術で刷新し、Merlin HM Mk2の機体側面へ装填するロールオン・ロールオフ(Roll-on/Roll-off)方式のモジュール構造を採用した点にある。大型のドーム型レーダーアンテナは機体左側面に配置され、飛行中の警戒時には保持アームが下方に180度回転して機体下面に張り出し、360度全周囲のレーダー捜索を行う。非運用時や発着艦時にはアームが上方に持ち上げられ、機体側面へ安全に収納されるメカニズムを持つ。レーダーには高度な水上・対空捜索機能、ルックダウン能力、逆合成開口レーダー(ISAR)モード、モード5 IFF(敵味方識別)が組み込まれている。前級のシーキング ASaC.7が固定改修機であったのに対し、Crowsnestではミッション装置を短時間で着脱可能にしたことで、状況に応じて通常の対潜・多用途機に戻せる優れた運用柔軟性と、Merlin特有の3発エンジン構造による高い静粛性・飛翔安定性を獲得している。
運用実績と評価
2021年の初期運用能力(IOC)獲得以降、イギリス海軍航空隊の第820海軍飛行隊(820 NAS)などに配備され、空母クイーン・エリザベスおよびプリンス・オブ・ウェールズを中心とするイギリス空母打撃群の基幹アセットとして実戦運用が開始された。2021年に行われた空母クイーン・エリザベスのアジア太平洋派遣(CSG21)において実戦配備され、地中海やインド洋、東シナ海におよぶ広大な空域・海域で長時間の警戒監視任務とF-35B Lightning IIステルス戦闘機の邀撃管制支援を実施した。初期の開発過程ではソフトウェア統合や各種性能試験のスケジュールの遅れが課題となったものの、実戦運用においては艦隊の早期警戒網を遠隔拡張する不可欠な「空中の目」として高い機能性が実証された。現代の安全保障環境においては、Link 16データリンクを介して艦隊各艦やF-35Bへリアルタイムで目標情報を伝達する唯一無二のヘリコプター型早期警戒・管制プラットフォームとして現役運用が続けられている。
| Official Name (正式名称) | Merlin HM Mk2 Crowsnest ASaC |
| Country of Origin (開発国) | イギリス / イタリア (AW101基本機体開発国) |
| Manufacturer (製造メーカー) | AgustaWestland (現 Leonardo Helicopters) / 主契約者: Lockheed Martin UK / システム統合: Thales UK |
| Designed (設計年) | Merlin HM Mk2 Crowsnest ASaCの設計年は、主契約者であるLockheed Martin UKへCROWSNEST開発・製造契約が授与された2017年(Thales製システムの選定決定は2015年)であり、運用開始年はイギリス海軍第820海軍航空隊(820 NAS)にて実機受領と部隊運用が開始された2021年(2021年3月に初就役、2021年9月に初期運用能力(IOC)を達成)である。 |
| Primary Operators (主な運用組織) | イギリス:イギリス海軍 艦隊航空隊(第820海軍航空隊 / 820 Naval Air Squadron) |
| Crew (乗員) | 乗員 3名 (パイロット 1名、オブザーバー / 戦術オペレーター 2名) |
| Dimensions (寸法):全長、全幅(翼幅)、全高 | L: 22.8 m (74 ft 9 in) (ローター回転時) / 胴体長 19.5 m (63 ft 12 in) W: 18.59 m (61 ft 0 in) (メインローター直径) / 胴体幅 4.5 m (14 ft 9 in) H: 6.6 m (21 ft 8 in) |
| Empty / Max Takeoff Weight (自重 / 最大離陸重量) | 自重: 10,500 kg (23,148 lbs) 最大離陸重量: 14,600 kg (32,187 lbs) |
| Powerplant (エンジン):型式、推力 | Rolls-Royce Turbomeca RTM322-01/8 ターボシャフトエンジン 3基 出力: 1基あたり 軸出力 2,100 shp (1,566 kW / 1,868 bhp) |
| Max Speed (最大速度):マッハ表記、高度別の速度 | 296 km/h (160 kt / 184 mph / 約 Mach 0.24) |
| Combat Range (戦闘行動半径) / Ferry Range (航続距離) | Ferry Range (航続距離): 750 nm (1,389 km / 863 miles) |
| Service Ceiling (実用上昇限度) | 約 4,570 m (約 15,000 ft) |
| Hardpoints (ハードポイント):ミサイルや爆弾の搭載能力 | 2箇所 (Crowsnestレーダードーム・ミッション機器装着用ハードポイント 2箇所 / 対潜型時は Sting Ray 魚雷 等の搭載用) |
| Fixed Armament (固定武装):機関砲の口径、弾数 | None (固定機関砲なし) ※ 1× 12.7mm M3M (GAU-21) 機関銃をドアガンとして装着可能 |
OPERATING FORCES / 運用国・軍種
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画像の引用元
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