
MATADOR(ドイツ軍名称:RGW 90)は、シンガポール、イスラエル、ドイツの3カ国による国際共同開発プロジェクトによって誕生した、歩兵携帯用の使い捨て型(ディスポーザブル)多用途擲弾発射器。都市戦や市街地における近接戦闘(MOUT)を強く意識して設計されており、発射時に砲尾からプラスチック片(カウンターマス)を噴出させる独自の反動相殺機構を備えているのが最大の特徴である。これによりバックブラスト(後方爆風)を最小限に抑えることに成功し、従来の対戦車兵器では極めて危険であった「密閉された部屋や建物内部(Confined Space)からの安全な射撃」を可能にしている。主なモデルとして、弾頭のプローブ(先端の突起)を伸縮させることで軽装甲車両を撃破するHEAT(対戦車榴弾)モードと、壁面を粉砕するHESH(粘着榴弾)モードを即座に切り替えられる多目的型の「MP(Multi-Purpose)」が存在する。さらに、市街地侵入時の進入路を強行形成するために brick(レンガ)やコンクリートの壁を破壊することに特化した「WB(Wall-Breach)」、建物内部の敵兵へ構造物ごと打撃を与えるためタンデム弾頭による遅延信管を備えた「AS(Anti-Structure)」などが展開されている。ドイツ国内や欧州市場では「RGW(Recoilless Grenade Weapon)90」ファミリーのシリーズ名で流通しており、その優れた携行性と室内射撃能力、多機能さからNATO加盟国を含む世界各国の軍や特殊部隊に導入され、ウクライナ紛争をはじめとする現代の戦場でも対戦車・対構造物戦闘の主力兵器として実戦投入されている。
| Official Name (正式名称) | MATADOR MP / WB / AS / RGW 90 (Recoilless Grenade Weapon 90mm)(ドイツ軍・欧州市場名称) MP: MATADOR-MP (Multi-Purpose) / RGW 90 MP WB: MATADOR-WB (Wall-Breach) / RGW 90 WB AS: MATADOR-AS (Anti-Structure) / RGW 90 AS |
| Country of Origin (開発国) | ドイツ / イスラエル / シンガポール |
| Manufacturer (製造メーカー) | Dynamit Nobel Defence |
| Designed (設計年) | MATADOR(ドイツ軍名称:RGW 90)ファミリーの開発・設計は1990年代後半に開始され、1999年に設計が完了した。その後、実戦運用(サービス開始)については、開発主導国であるシンガポール軍において2000年に初めて導入され、派生品や各国への本格的なデリバリー・運用開始は2000年代半ば(2005年〜2008年頃)にかけて順次拡大している。なお、個別の派生型(AS型など)については、2000年代後半から2010年代初頭にかけて各国軍(イスラエル軍やイギリス軍など)への導入および運用が開始されている。 |
| Primary Operators (主な運用組織) | シンガポール:シンガポール陸軍(共同開発国であり、旧式のアームブラスト無反動砲の後継として歩兵部隊・各戦闘ユニットにMATADORとして広く大量に制式配備・現役運用) イスラエル:イスラエル国防軍(IDF)、およびイスラエル国家警察(MATADORとして陸軍の各主力歩兵旅団や特殊部隊、および警察の精鋭対テロ部隊「ヤマム[YAMAM]」等で市街地戦用の主力兵器として実戦運用) ドイツ:ドイツ陸軍(RGW 90 AS[対構造物型]、および高性能火器管制装置を備えた長射程仕様のWirkmittel 90(RGW 90 LRMP)を各歩兵部隊や特殊作戦群[KSK]等の精鋭ユニットにて主力運用) イギリス:イギリス陸軍(対構造物用のMATADOR-AS仕様をAnti-Structures Munition (ASM)の制式名称で調達し、主力歩兵部隊や各種戦術ユニットにて現役運用) ベルギー:ベルギー陸軍(特殊作戦連隊[SOR]や一般歩兵部隊の戦術対戦車・対構造物アセットとして、RGW 90 ASおよび各種ファミリーモデルを数千基規模で制式配備・運用) スイス:スイス軍(市街地戦闘および構造物破壊用の携帯式重火器として、RGW 90ファミリーを公式に調達・部隊配備して現役運用) クロアチア:クロアチア陸軍(主力歩兵部隊等の火力強化ユニットにおいて、RGW 90を導入し通常の訓練および実戦用として現役運用) スロベニア:スロベニア陸軍(主力戦闘部隊や即応部隊等において、RGW 90を携帯式対軽装甲・対野戦構築物用アセットとして制式配備・運用) ベトナム:ベトナム人民軍(海軍陸戦隊[海兵隊部隊]における沿岸・島嶼防衛時の軽装甲車両・拠点撃破用の歩兵重火器として、MATADOR仕様を制式調達・運用) コソボ:コソボ治安軍(KSF)(2023年に最大1,000基規模のRGW 90を公式発注し、主力防衛・軽歩兵部隊等への配備・運用を順次進行中) サウジアラビア:サウジアラビア陸軍(特殊作戦部隊や対テロ対応ユニットにおいて、拠点侵入・市街地戦闘用としてMATADORを限定的に配備・運用) メキシコ:メキシコ陸軍(公式な直接調達国ではないが、小口径のファミリー派生品であるRGW 60仕様を公式調達し、憲兵部隊等の特殊火力アセットとして限定運用) ウクライナ:ウクライナ武装部隊(陸軍、特殊作戦部隊、領土防衛隊など。ドイツから公式寄贈・軍事支援された1万数千基規模のRGW 90、およびイギリス等から供与されたASM(MATADOR-AS)を前線の対戦車・市街地戦闘にて主力実戦運用) ロシア連邦:ロシア連邦軍(公式な調達国ではないが、ウクライナ紛争の前線においてウクライナ軍が遺棄・放置した無傷のRGW 90を鹵獲品として回収し、一部の前線戦闘部隊が対戦闘車両・対構造物用にそのまま転用・実戦運用) |
| Type (種類) | 多用途使い捨て式無反動擲弾発射器 (Disposable multi-purpose recoilless grenade weapon system) |
| Caliber (口径) | 90 mm (3.54 in) |
| Operating Principle (作動原理) | カウンタマス式無反動方式(燃焼ガスの後方噴射ではなく、砲尾からプラスチック粒子を排出して反動を完全に相殺する方式。これにより密閉空間や室内からの安全な射撃が可能) ※ただし発射後に飛翔を維持するためのロケット推進(ロケットアシスト)も併用 |
| Overall Length (全長) | 運搬時(標準仕様): 1.0 m (39.4 in) ※一部仕様により960 mm 発射準備時(HEATプローブ展開時): 1.15 m (45.3 in) ※一部仕様により1.08 m ※使い捨てのチューブ構造であり、モデルや弾頭・プローブの伸縮状態によって異なる |
| System Weight (システム重量) | MP / HH (標準型): 約 8.7 〜 8.9 kg (19.1 〜 19.6 lb) AS (対構造物型): 約 10.0 kg (22.0 lb) WB (壁面破壊型): 約 13.0 kg (28.7 lb) ※本体と標準光学照準器を含めた単体の重量(即応弾が本体チューブ内にあらかじめ工場封入されている使い捨て型のため、本体重量が即応弾込の総重量となる) |
| Muzzle Velocity (初速) | 約 240 m/s 〜 250 m/s(約787 ft/s 〜 820 ft/s) |
| Armor Penetration (装甲貫通力) | MP / HH (HEATモード時): 均質圧延装甲(RHA)換算で 500 mm (19.69 in) 以上 |
| Effective Range (有効射程) | MP / HH (固定・移動目標): 20 〜 500 m (22 〜 546 yd) AS (固定目標): 10 〜 400 m (11 〜 437 yd) WB (固定目標): 20 〜 120 m (22 〜 131 yd) ※一部資料で10m〜100m |
| Sight / Guidance (照準・誘導方式) | 標準光学照準器: 本体固定式の光学スコープ(1.5〜3倍率) 最新・夜間仕様: ピカティニー・レール(Picatinny rail)を介し、取り外し可能なクリップオン式の反射(リフレックス)ドットサイト、暗視(ナイトビジョン)スコープ、赤外線(サーマル)ナイトビジョンを装着可能 火器管制・誘導: Aimpoint社製「FCS13RE」等のレーザーレンジファインダーおよび弾道コンピューター付火器管制システム(FCS)に対応(※自動的に弾道補正を行うが、弾体自体を飛翔中に誘導するレーザー誘導や赤外線画像誘導などのミサイル的「誘導機能」は備えていない) |






